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猫 第四話

階段を下りてリビングのドアを開ける。
机の上に、サラダとリンゴが用意されていて、パンと紅茶は自分で用意する。
レタスと胡瓜とトマトのサラダの上にリンゴが2切れ。
昔から変わらない僕の朝食だ。
物心ついた時から使っていた紅茶用のマグカップはひび割れてしまって、今はもう使っていない。アヒルの絵が描かれたそのマグカップは、旅行に行ってはお土産といってマグカップを買ってくる親戚の伯父さんにもらったものの一つらしい。もらった時のことは知らない。ただ物心ついたころからそのマグカップで毎朝紅茶を飲んでいた。

小さい頃は母親に紅茶を入れてもらっていたので、時たまカップを間違われた。その時の紅茶の重苦しい味は今でもよく覚えている。カップが違うだけでこんなに紅茶の味が変わるとは不思議なものだが、まずいものは仕方がない。本当に味が変わるのだ。

そのカップが使えなくなってしまった今、僕は何の変哲もないただの白いカップで紅茶を飲んでいる。白いカップは食器棚に六個ほどある。どれも同じ形で同じ白色。見比べれば茶渋の付き具合が各々違うのだろうが、そんなことには誰も気を配らない。毎朝どれを使っているのか別に決めているわけではないし、どれを使ったところで紅茶の味は同じだ。僕は今日も無作為に六個並んだ白いカップから一つを選んで紅茶を注ぐ。そして毎日同じ味の紅茶を飲む。それが僕の日常であったし、今日もまたそうだ。

ちぎったパンを紅茶で流しながらテレビを見る。服は椅子にかかったままのジーパンを履き、クローゼットの一番取りやすいところにあるTシャツを着て、その上に適当なシャツを羽織る。リビングをうろちょろしながら歯を磨いて、時計をしたら家を出る。朝起きてから三十分もあれば家を出る体制が整うわけだ。

毎朝の満員電車。乗り込むドアも決まっている。二年以上同じメンバーで毎日のように同じドアの前に並んでいる。下手すれば大学の友達よりも高い頻度で会っているくせに一切友達になる気配はない。そんな人たちに囲まれながら電車に揺られ大学へ向かう。


今日は天気がいい。大学につくと一応整えられた大学の木々たちがとてもきれいな新緑を僕に見せてくれた。風も涼しくて、まだ蒸し暑い夏になる前、束の間のさわやかな季節だ。教室につくと僕はいつも座っている後ろの廊下側の席に座った。教室に入ってくる友達に「おはよー」「ひさしぶりー」とかいいながら、授業が始まるまでの時間をすごす。

不意に僕はいつもと何かが違うような気がした。
さわやかな陽気と、窓から見える新緑。いつもと変わらない授業前の光景。それらをボーっと眺めているうちに、チャイムが鳴って、授業が始まった。


昼休みが終わって三限目が始まろうとしていた。僕はまだ食堂にいて、体からやる気がわいてくるのを待っていた。でも、僕の頭の中に湧いてきたのは、三限の授業はレポート提出で単位が取れるということと、レポート課題の言い渡しが確実に今日はないということだった。大学生活が始まって日を追うごとに怠惰になっていく自分に少なからず不安は抱いていたが、勤勉に学業に励む生徒になる気力もなかった。僕は大学の食堂をあとにして、駅に向かった。

駅に向かう途中、僕は木々の新緑に見とれていた。木の葉の間から春の日差しがのぞいてきらきらしている。僕はこんな日も長く続かないだろなと思って、少し林を見て回ることにした。並木のように植えられた木々達の間を入っていくと、そこには昔遊歩道にしようとしたかのような跡が残っていて、古びた木製のベンチが置かれていた。僕はそこに座って一息ついた。ふーとポジティブな溜息をついて木々に囲まれた空を見上げた。大きく息を吸って目を閉じる。湿気のないさらさらの風が気持ちよかった。

急に僕の膝に重くて何か温かいものの感触がした。驚いて目を開けると、僕の膝には一匹の黒猫がこちらを見て座っていた。青い眼球に黒い瞳。急に昨日の出来事を思い出した。

「おまえ、昨日の…」
猫相手につい口をついて言ってしまった。

猫はこちらを見るだけで、何も返事はしない。
僕は一方ではあり得ないと思いながら、一方でこの猫が昨日の猫だと確信しているような気もした。

僕は辺りに生えていたシロツメクサの茎で冠を作った。昔、幼稚園の遠足とかでよくシロツメクサの冠みたいなのをあんで作ったものだ。今でも作れたのには自分でも驚いたが、それを眺める猫は、何かとても奇異なものでも見るような表情で、その顔を見ていると少し可愛かった。
出来上がった冠をぐるぐるさせたり、高いところに持っていったりすると、猫はそれを目で追ったり、手でパンチをしてくる。その光景は見ていて飽きなかった。

そうこうしているうちに、チャイムが鳴っているのが聞こえた。結局三限目いっぱい猫とあそんだらしい。僕はもう帰ろうと思って鞄を背負った。そして、シロツメクサの冠を猫の頭から通して首飾りにした。頭を通すとき猫は少し嫌そうな顔をしたが、首に通ってからはケロっとした顔になった。
林を抜けるころまで猫は僕のまわりをうろついていた。黒猫にシロツメクサの首飾りはかなり目立っていたが、それなりに可愛かった。

僕が林を抜けて、歩道を歩きだすと猫の姿は消えていた。電車まで付いてきたらどうしようかと心配していたが、僕の心配をよそに猫は勝手にどこかに行ってしまったようだった。

僕は電車に乗り込み、家の最寄り駅まで見事に眠った。





つづく
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